Session2 ─受験という通過点─

【高美時代】

司会さらに遡って、受験時代について。

新井僕は、親が美大受験に大反対で、美大に行くならお金を出さないって言われた。自分の手持ちのお金で通える期間を逆算して、高三の夏から高美に通いはじめました。全額自腹です。なんでお金がもうすっからかんでしたね(笑)。現役で行けなかったら美大を諦めるつもりでしたので、一回限りのチャレンジでした。

水野現役の時は講習会だけに来ていました。結果、現役受験は駄目でした。毎日通わないと駄目だなって思って、浪人時は毎日通いました。毎日集中して描いたことがかなり力になったのではないかと。それで私大は合格して、ああよかったなと。

新井僕はもう、親が完全にお金を出したてくれなかった状況だったので、真面目に描いていたけれど、周りのみんなも真面目に描いているじゃないですか。あれだけの作品を描いて、絵に自信がある人たちがそれでも合格するのはごく一部だった。

司会はい、当時の受験倍率は軒並み現在の倍はありました。

新井真面目に描いていたけど、それでもどこも受からないのではないかとすごく不安になりましたね。もう自腹きっているものだから、なにか要領よくこの状況を打開できるなにかがあるのではないかとずっと考えていました。ある日思ったのが、部屋で一番うまい人が白紙から完成までどのように仕上げているのか、自分は描かないでうまい人の斜めうしろにイーゼル立てて、怒られるのも承知で二ヶ月くらいずっと見続けました。上手な人はこう描くのだという流れを覚えた上で、自分なりにアレンジするという方法です。やはり、親にお金を出してもらうのと、自分でお金を出したのでは、精神的な焦りというかプレッシャーにちょっとだけ差があったのかなと思います。どうにか半年で結果を出したかった。高美にいた半年は上手い人の制作手順や描き方をずっと観察していたわけです。

水野講師になにか言われなかったのですか(笑)。

新井いやもう講師からは「お前なにをやってるんだ」って言われるし、うまいひとからは嫌な感じに思われたでしょう(笑)。でも、そこで引き下がらなかったというのは、やはり自腹でお金を出しているというのが大きかったです。出した分を取り返したいみたいな。そんな半年でしたね。講師からはよく思われてなかったと思います(笑)。

水野でもそれ、描かないことに焦りそうじゃない?

新井高美にいる間はずっと観ていて、放課後から高美に行くまでは学校の美術室でずっとデッサンしていました。高美で見た上手い人のデッサンを反復して描いて、高美いったらまた見て、家に帰ったらまた描いて…。予備校の間は描かないけれど、その前後にはずっと描いていました。でも、上手いひとと全く同じにはかけない訳で。そしてまた、予備校いってずっと観て。いやらしい感じですね(笑)。

司会おもしろい勉強方法ですねえ。

新井もう当時それしか思いつかなかったですね。

水野それもまたひとつのやり方なんでしょうね。最初に言ったように、自分の信念を貫いた結果みたいな。

水村美大に進学すると決めたのは高校3年の夏で。それまで全く別の道に進もうとしていたのでまったく準備をしておらずで、急いで高美の夏期講習に申し込みをしました。初めて高美に行ったとき、高美が鞘町のゲームセンターの2階にあった時代の、あの2階への階段を緊張しながら上ったのを鮮明に覚えています。ドアを開けたら別世界というか、別次元の世界に来てしまった様な感覚でした。みんな真剣な目をしてモチーフと向き合っていて。ものすごい熱量を感じました。自分は小さい頃から絵が得意な方だと思っていたのですが、回りみんなはもうそれはそれはうまい。浪人生なんかは特に。衝撃でした。課題をこなすのがやっとで、自分のへたくそさ加減を嫌というほど感じました。

新井卒業後も好きな絵だけかいて生活しかったんですが、いきなりそうにはなれない。でもそうになるにはどうしたらいいかみたいなのは、諦めずにやってこうと思っています。

水野これがベストという道はないですからね。

新井子供のころに思い描いた、こうなったらいいなっていうのがずっと続いてきている感じですかね。

水野僕もまだ道半ばですけど、自分が感じるいいものをつくりたいですよね。それで、流行りとは違う、自分自身が普遍的で感動を生むようなものをつくりたいですね。それをするにはやはり継続してゆかないと駄目だし。でも、その葛藤から生まれるエネルギーっていうのは絵から見たひとに伝わる気がしますし、そう信じたい。

新井わかります。自分がいいと思って作ったものは、後々それが誰かに伝わるのではないかと思っています。そう信じて描くしかないから。自分らのあとも、絵が好きで描いている子達がいるわけで、その子たちに成功例を見せるためにも、僕らが好きなことをやって成功できたら、うまくバトンがつながった感じになるのではないかと。

水村私も続けることが一番大切だと思います。

【芸大・美大をめざすひと達へ】

司会ここは予備校でもあります。これから芸大・美大をめざすひと達へメッセージを。

新井予備校に来る前にも、それぞれがなにをやりたいかっていう漠然としたイメージは持っているはずだと思います。予備校に来て周りの絵を見て感化されて変わっちゃうとかじゃなく、自分自身の世界観みたいなものを大事にして、大人になってもそれをそのまま持ち続けて、そのまま世の中に貢献して、世の中の人々を幸せにできるような、そんな仕事をしてほしいですよね。

水野受験にあたり、先ず合格するために技術も含め色々学ぶことは大事だと思います。でも、内面は自分を見つめて掘り下げていってほしいと思いますね。色々なことから影響を受けつつも、自分を見失わないように進んでほしいなと思います。自分を思い返すと、やはり受験なので、目的は合格になってくるのですけど、そこにとどまらずに、自分がどういうことをしていきたいかってことに向かう一つの通過点のようにも捉えていた気がします。自分の目標は、“描きたい”っていう気持ちは、もともとは自分の中から出てきたエネルギーだと思うので、そこをすごく大事にしてほしいし、こうしなきゃよりもこうしたいって感じるものを信じて突き進んでほしいなと思いますね。

水村何かを作り出したい、表現したいという純粋な気持ちを忘れなければ、自分の思い描く到達点に近づけると思います。

司会本日はお忙しいなか、充実したお話をありがとうございました。

《取材場所 : Art Cafe JANIS(姉妹校‖アートフォーラム高崎内)にて 2017年1月》

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