タカビOG・OB‖CROSS TALK 《絵画・私》

絵画の現在
パネリスト
新井 コー児(美術家)
水野 暁(画家)
水村 綾子(美術家)

Session1 ─現在・学生時代─

【現在の制作活動】

司会高美美術学院出身のOB・OGで、制作・発表を活発にやってらっしゃる作家さんにお集まりいただきました。現在の制作活動の実際や少し遡って学生時代のお話をお聞きできればいいなと思っております。それではまず自己紹介をお願いします。

新井新井コー児です。油絵をメインに銅版画、日本画などもやっています。紙粘土などにも触ったり、まあファインの枠でいろいろやっている感じです。

水野水野暁です。絵画で写実的な作品を制作しています。既存の写実の枠内だけではなく、その先にある絵画の可能性を開拓していきたいと思っています。

司会 インスタレーションの発表も拝見しました。

水野そうですね、基本は絵画ですが、表現したいものによって他の表現方法にも挑戦しているのと、それによって、最終的に自分の絵画にフィードバックしてできればいいなと思ってやっています。

水村水村綾子です。油彩を用いて抽象絵画を制作しています。最近は音をテーマにしていて、音や音楽、リズムが持つ伝達力や親しみやすさ、自分の内側の何かが触発される感じに憧れているところがあり、自分もそんな作品が作り出せたらいいなと思っています。

司会現在の美術界で作品を発表するなかで、ご自分の立ち位置とか考えたりしますか。

新井今の美術界は、なにをやってもアリになっちゃったじゃないですか。ある種取り上げ方次第で面白くもなってしまうみたいな。規制がひとつもない状態にあっても自分がなにをやりたかったかを見失わずに、大事にやっていけるかみたいな。それを見失うともう自分自身が遭難しちゃうくらい、ほんとになんでもありの状況になってきているっていうのは思いますね。自分の根本ってなんだろうって考えて、そこからはズレないようにしないと、流れに流されちゃうともう、溺死するような状況なんじゃないかと。

水野今僕は生まれ育った場所で制作しているのですが、それも大きいかもしれないけど、自分の居場所を掘り下げているような感覚はあります。その結果どういうことが出てくるのか、流行りとかではなく自分がどういう人間なのか、ということに向かっていきたいですね。一方で、いろんな周りの状況も見た方がいいかなって思ってます。全く今の美術の状況を見ないで自分のやっていることに疑いを持たずに進んでしまうだけだと、もしかしたらあらぬ方向に進んでいるかもしれない。ある程度自分を客観視することも大事だと思っています。

水村現代の美術界の動向に詳しくないのでよくわからないのですが、あまり自分の立ち位置という事は考えません。それより自分自信が納得いく作品になっているのかどうか、過去の作品を超えられているか、自分に恥じない作品作りができているか、 という事だけです。

司会水野さんはスペインにも留学されていますが。

水野最初はただ、好きな作家が向こうに多かったっていうのが動機で、そういう作家たちを生み出した国に実際に行ってみたかったんですよね。今はネットで調べれば結構情報が手に入る時代ですが、留学体験は、現地で現地の空気を肌で感じることが自分にとって貴重な体験となりました。それで、日本に帰ってくると逆に日本を客観的にみられるというか、そういうこともあったとおもいます。いろんな角度から自分を見直すきっかけにもなりました。

【学生時代】

司会新井さんと水野さんは同じ多摩美術大学で同時期に学ばれたわけですが、在学中は全く関わりがなかったようで。

新井そうなのです、僕現役で多摩美入りました。水野さんとは1歳違いで、一浪されたので学年でいうと2学年差でした。多摩美は、1、2年は同じ棟で、3年から別の棟に移ります。そうすると、ちょうど入れ違いになってしまった訳です。お互い知らないまま卒業しました。その後高崎市美術館の企画展『作家王国』で初めて会うことになります。会ってみたら同じ大学で、同じ高美にいて、歳もひとつ違い、それなのになんでお互い知らなかったのっていうのがとても不思議です。作風も全然違うじゃないですか。だから、セットにされることなんて一生ないはずの二人なのに、偶然からの始まりですが、それからは定期的に関わりが続いています。だから今日も、また水野さんかよって(笑)。

水野あの世代って、具象自体やる人少なかったじゃないですか。全体からしたらちょっと異端。ふたりともちょっと異端だったのですね。

新井あの時代で具象をやるっていうのがもう異端でしたね。あの時代の流れだとみんな抽象に行くのに、流れに流されないでずっと具象をやっていたやつが今も最終的に絵を描き続けているみたいな(笑)。

水野僕も学生時代に具象をやりたくてひたすらモデルを描いていました。1,2年時はカリキュラム通りなのですが3年から自由制作になりましたが、変わらずずっとモデル呼んで描いていました。みんながやらない分自分がやるんだという、半分意地みたいな感じもありました(笑)。

新井時代の流れに反発するというのではないけれど、流されるのも違うと思って、そうするともう意地に走る。日の目を見ないことを覚悟しつつ、流れに流されるくらいなら反発してやるって逃げた結果が今に至ってる、みたいな感じです。

水村大学時代はあまりまじめな学生ではなかったです。単位もギリギリで、よく卒業出来たと思います。でも自分の中では同級生の誰よりも良い作品が作れる、という根拠の無い自信だけはあり(笑)。全然努力もしていないのに。今思うと本当にバカですが、あの意味のない時間もけして無駄ではなかったような気がします。

司会影響を受けた作家。

新井好きな作家は長谷川等伯、酒井抱一、あとは運慶。この三人です。前の二人の作品は見た瞬間に「おっ」と思う。それってすごいなって思うと同時に、どうやってそれが出せるのだろう、みたいな。それが気になっています。僕は多摩美の油画を出でるけど、別に油絵だけが描きたたかったわけではなくて、受験のシステム上別れているから油絵みたいな。だから僕彫刻も大好きです。形のセンスとかゾクゾクくる感じがあり、運慶が大好きです。

水村意外ですね。

水野高校の頃からベラスケスは好きですね。あとはアントニオ・ロペス・ガルシアも好きです。二人ともスペインの作家です。あとは磯江毅さん。師匠的な存在でしたね。スペインのアトリエにも住まわせてもらったりしました。他にアルプスの画家セガンティーニ。絵の具が厚塗りでこてこてしている、あの素朴なかんじが好きですね。キャンバスを担いで山を登り、現場で制作したというところにも共感が持てます。

水村まじめに絵を描き出したのは大学卒業後で、一年間だけ研究生という形で学校に残ったのですが、その当時はやっぱり抽象絵画にあこがれていて。辰野登恵子さん、堂本右美さんの作品にはかなり影響を受けました。あんな迫力のある作品が描けたらいいなと。

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